ブログ
英語コンテンツを作るときに気をつけたいタイポグラフィのディテール
ウェブやソーシャルメディアなどで、日本語の原稿を英語に翻訳した(と思われる)コンテンツを目にする機会が増えています。しかしそういった英語のコンテンツの中には、欧文タイポグラフィの視点から見ると少しおかしく感じられるものも少なくありません。たとえば句読点や記号の使い方が間違っていたり、語句が不自然に強調されていたりといった具合です。このようなちょっとしたミスは、ひとつひとつは些細なことでも、結果としてコンテンツが正しく伝わらなかったり、書き手の信用を下げてしまったりする原因にもなります。
この記事では英語のコンテンツを作るときに気をつけたいタイポグラフィのディテールについていくつか解説します。タイポグラフィといっても、グラフィックソフトを扱う技術も高度なCSSの知識も必要ありません。ほんの少しテキスト原稿に手を入れたり、マークアップを工夫したりするだけでも、タイポグラフィの質を高められるのです。
日本語の約物を使わない
英語のテキストに日本語の約物(句読点や記号)が混じっていることは意外と少なくありません。必ず欧文(いわゆる半角)の約物を使うようにしましょう。たとえば感嘆符(!)、疑問符(?)、コロン(:)、アンパサンド(&)、スペースなどは欧文と日本語の両方が存在しますが、一見して見分けにくいので注意が必要です。丸括弧、波括弧、角括弧など括弧類も同様です。
悪い例:
She’s Gone:The Best of Hall & Oates(Deluxe Edition)
良い例:
She’s Gone: The Best of Hall & Oates (Deluxe Edition)
そのほか、日本語では丸(○●◎◉)や四角(□■◇◆)といった記号で見出しや箇条書きを表現することがありますが、英語では使いません。また注釈には米印(※)ではなくアステリスク(*)やダガー(†‡)を使います。
まぬけ引用符を使わない
英語では引用符として「‘」と「’」、「“」と「”」を使います。日本語の鉤括弧(「」『』)と同じように、始めと終わりで形の違うふたつでひと組みになっています。引用符の代わりに縦にまっすぐな形の「"」と「'」を使っている例をよく見かけますが、これらは「まぬけ引用符」(dumb quotes)と呼ばれ、本来の引用符ではありません。また「I’m」などのアポストロフィも同様に「'」ではなく「’」を使います。
悪い例:
I said, "No, no, no, you're wrong."
良い例:
I said, “No, no, no, you’re wrong.”
キーボードでの入力はやや面倒ですが、正しい引用符を使うようにしましょう。
Unicode | Mac | Windows | |
---|---|---|---|
‘ | U+2018 (LEFT SINGLE QUOTATION MARK) | Opt + ] | Alt + 0145 |
’ | U+2019 (RIGHT SINGLE QUOTATION MARK) | Opt + Shift + ] | Alt + 0146 |
“ | U+201C (LEFT DOUBLE QUOTATION MARK) | Opt + [ | Alt + 0147 |
” | U+201D (LEFT DOUBLE QUOTATION MARK) | Opt + Shift + [ | Alt + 0148 |
強調の目的で引用符を使わない
日本語では語句を強調するために鉤括弧(「」)で囲むことがよくあります。これを英語に翻訳するときにそのまま引用符に置き換えている例がありますが、英語での強調はイタリックにするのが基本です。引用以外に引用符を使うと、言外の含みや皮肉を表現しているかのように読めてしまうこともあります。なるべくイタリックを使うか、そもそも不必要な強調をしないよう調整しましょう。
作品タイトルはイタリックと引用符で
本や映画など作品のタイトルを表すとき、日本語では鉤括弧または二重鉤括弧を使うことが多いですが、英語ではイタリックと引用符を使い分けます。ざっくり言うと、作品の単位が大きいとイタリック、小さければ引用符というルールです。たとえば本や雑誌、映画、テレビ番組、音楽アルバムなどはイタリックで表し、雑誌の記事、短編小説、テレビ番組のエピソード、楽曲などには引用符(アメリカ英語ではダブルクオート、イギリス英語ではシングルクオート)を使います。
<p lang="ja">「ヘルプ!」はアルバム『ヘルプ!』に収録。</p>
<p lang="en">“Help!” appears on the <cite>Help!</cite> album.</p>
ダッシュを使い分ける
ダッシュ(ダーシ)の代わりにハイフンマイナス(-)を使っている例がよくありますが、本来これは誤りです。英語のダッシュには短いenダッシュ(–)と長いemダッシュ(—)があり、用途によって使い分けます。enダッシュは期間や範囲、複数の関係する事柄をつなげるときなど、emダッシュは文が途切れるときや引用元などを示すのに使います。
<!-- En dash (U+2013) -->
9:00–18:00
London–Tokyo
<!-- Em dash (U+2014) -->
“I sense something; a presence I’ve not felt since—”
—William Shakespeare
キーボードでの入力方法は以下のとおりです。テキストエディター上でenダッシュとemダッシュが見分けにくいときは文字参照で記述してもいいでしょう。
Unicode | Mac | Windows | |
---|---|---|---|
– | U+2013 (EN DASH) | Opt + - | Alt + 0150 |
— | U+2014 (EM DASH) | Opt + Shift + - | Alt + 0151 |
句読点の後ろにスペースを入れる
ピリオド(.)、カンマ(,)、感嘆符(!)、疑問符(?)、コロン(:)、セミコロン(;)といった句読点の後ろにはスペースをひとつ入れます。
悪い例:
Frankly,Mr.Shankly,I’m a sickening wreck.
良い例:
Frankly, Mr. Shankly, I’m a sickening wreck.
むやみに大文字にしない
固有名詞や強調したい語句などを大文字にしている例をよく見かけますが、大文字の多用はあまりおすすめできません。
その理由のひとつは可読性です。私たちが日本語を読むとき漢字の一画一画をすべて目で追うわけではないように、欧文でも文字ひとつひとつではなく単語の輪郭を捉えて読んでいます。しかし大文字だけの単語は輪郭がどれも似たような長方形になりがちなため、スムーズに読むのが難しくなるのです。
また、大文字のフレーズは大声で叫んでいるかのような印象を与える、という点にも注意が必要です。小説では登場人物が怒鳴っていることを表現するときセリフを大文字にすることがあります。とくに文や段落をまるごと大文字にしてしまうのは避けましょう。
日本の団体名やブランド名などの中には、すべて大文字で表記するといった独自のルールを定めているものがあります。またロゴタイプがすべて大文字だからという理由でテキストでも同じように大文字にしている例もよく見受けられます。しかし英語では固有名詞のうち単語の最初だけを大文字にするのが原則です。不自然に目立ってしまわないよう、できれば英語のコンテンツでは英語のルールに合わせましょう。
参考資料
- 小林章『欧文書体 その背景と使い方』美術出版社、2005
- 髙岡昌生『増補改訂版 欧文組版 組版の基礎とマナー』烏有書林、2019
- Smart Quotes for Smart People